【薬に頼らない治療】ナチュラル心療内科のブログ

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聴覚過敏

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「危険」で「不安」な状況では、まず身を守るために本能的に捕食動物の唸り声のような低い周波数帯の音に注意を向け警戒する必要があり、中耳のアブミ骨筋は弛緩状態となります。その結果、不審な物音などの低い周波数帯の音には気付き易くなるのですが、人の声は逆に聴き取りにくくなってしまいます。「安全」で「安心」できる環境において、初めて人との会話に意識を向けることができるのです。

このような現象は、周囲の雑音が大きく聞こえて人の声を聴き取りにくくなる聴覚過敏と似ています。自閉症やうつ状態、統合失調症、PTSDなどでよくみられる症状ですが、同時に表情や声の抑揚に乏しく迷走神経による心拍数の抑制が弱く頻脈になるという社会交流神経系が上手く働いていな状態も認められます。これらの症状は、生物行動学的観点からは絶えず危険に対して耳を澄ませて警戒し続けている状態と言えます。

自閉症や言葉の発達の遅れには、高い周波数の子音が聞き取れないことで単語の意味が理解できないということが大きく影響していると、ポリヴェーガル理論のポージェス博士は考えています。ニューロセプションが世の中を危険と判断し、アブミ骨筋が弛緩した状態で捕食動物の唸り声と同じような低い低周波数帯の音を警戒する状態が聴覚過敏であり、その結果高い周波数帯の子音を含む言葉を聞き取れず理解できなくなるのです。

最も小さな骨と筋肉が危険から身を守る

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周囲の環境が「安全」か「危険」かを無意識下で判断するニューロセプションの中でも、聴覚からの情報はとても重要です。例えば、オオカミなど捕食動物の唸り声のように単調で低い周波数帯の音や声に対して「危険」と感じ、優しい女性の声や子守歌などのような抑揚のある高い周波数帯の声には「安全/安心」を感じています。これは進化の過程で、低い周波数帯の音と捕食動物を結びつける神経回路が形成されているからです。

耳の中(中耳)には、耳小骨という人体で最も小さな3つの骨が連なって鼓膜からの音の振動を内耳に伝えています。この時に音の振動を調整しているのが、アブミ骨筋というわずか3mm程の体内で一番小さな筋肉です。この筋肉は社会交流神経系の一つである有髄の顔面神経でコントロールされており、緊張させることで低い大きなエネルギーを持った音が入らないようにして耳を守ったり、高い周波数帯の人の声を聴き取ったりしているのです。

低い周波数帯の音が多い雑踏の中で人の声を聴き取ることができるのは、このアブミ骨筋を適度に緊張させることで、高い周波数帯である人の声を選択しているからなのです。逆にアブミ骨筋が弛緩していると、低い周波数帯の大きなエネルギーを持った音が内耳に伝わり人の声は聴き取りにくくなります。これは捕食動物への警戒態勢が優先された状態で、ニューロセプションが「危険」と判断していることによります。

無意識下の危険察知システム ~ニューロセプション~

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ポリヴェーガル理論では、「安全」「危険」「生命の危機」の状態は無意識下で察知され、それぞれの状況に応じた自律神経システムが働くと考えられています。このプロセスは意識的な知覚(パーセプション)とは異なり、無意識レベルでの反射であり、ポージェス博士は「ニューロセプション」という言葉で表現しています。このニューロセプションは、五感刺激の中で主に視覚と聴覚からの情報により大きな影響を受けます。

神経系による無意識下での危険評価システムであるニューロセプションによる生理学的反応は、動悸や腹部症状などの内受容感覚として感じることができます。また不安感や第六感として感じ取ることもあります。このニューロセプションによる一連の反応は個人差が大きく影響しています。同じストレス状況でも、どのようなニューロセプション反応が起こり、その結果どのような生理学的状態になるかは人により異なっているのです。

トラウマ治療などにおいては、ニューロセプションを通じて「安全である」と感じ、安心できる落ちついた生理学的状態に入ることができるように環境を整えることが重要となります。特に生命の危険を感じるようなトラウマ体験においては、不動化のシャットダウン状態を経験しているためニューロセプションが安全を感知することが難しく、社会的交流に必要な生理学的状態を前提とする一般的なカウンセリングなどは効果が限定され時間がかかってしまうのです。

ヴェーガル・ブレーキ

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迷走神経は一本の神経ではなく、脳から内臓器官に向かう遠心性線維(運動線維)と、内臓器官から脳幹に入ってくる求心性線維(感覚繊維)の束が詰まっている導管と言えます。この迷走神経を構成している線維の約80%が脳幹の孤束核に終わる感覚線維で占められています。残りの約20%が運動線維で、その6分の1が有髄線維であり、脳幹の疑核から始まり横隔膜より上の心臓などの臓器に分布しています。(横隔膜上迷走神経)

運動線維の6分の5は無髄で、背側運動核から始まり横隔膜より下の胃腸などの臓器に分布しています。このようにポリヴェーガル理論においては、迷走神経は3つのタイプの神経線維から成り立ち、その時々の状況に合わせてどのような反応をするのか身体が無意識に判断しているのです。この中でも有髄の腹側迷走神経は心拍数の制御においてヴェーガル・ブレーキとして重要な働きをしています。

心臓は洞房結節というペースメーカーにより1分間に約90回の自発的な収縮を繰り返しています。安静時心拍数が1分間に約60回というのは、有髄の迷走神経によるヴェーガル・ブレーキが心拍数を20~30回減らしていることによります。オートマティック車が停止しているとき、アクセルを踏まなくてもブレーキを緩めるだけで動き出すのと同じで、通常は微調整が難しい交感神経というアクセルを踏まなくても、腹側迷走神経によるヴェーガル・ブレーキを緩めるだけで、日常生活に必要な可動化の微細なコントロールができるのです。