【薬に頼らない治療】ナチュラル心療内科のブログ

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身体心理学的アプローチ

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トラウマによるシャットダウン状態は、そのトラウマ状況に適応するための正常な反応と考えられます。解離状態、転換反応、失感情症、失体感症などの症状は、トラウマ体験から自らを守るための背側迷走神経の働きにより引き起こされます。本来適応的な反応であるこれらの症状が、あるところで固まって動きが取れなくなってしまい、必要でない状況でも同様の反応をしてしまうと病気として治療の対象となってしまうのです。

効果的なトラウマ治療においては、このシャットダウンの閾値と生理学的状態を変化させています。その結果、再び社会的な交流ができるようになり症状も改善していくのです。ポリヴェーガル理論においては、他者との交流により生理学的状態を協働調整することができると考えており、そのためには「安全である」と感じることが重要であり、セラピストの役割はそれを可能とする信頼関係を作ることでもあると言えます。

安全であると感じる環境で、固まっている生理学的状態(呼吸、心拍、筋緊張など)を少しずつ改善していくことが、ポリヴェーガル理論における効果的なトラウマ治療であるとポージェス博士は考えています。これまでの、「トラウマは心の病気である」という考えではなく、トラウマ状況への適応的な身体の生理反応が固定した状態であるという考え方により、身体からのアプローチを併用した「身体心理学的治療法」という新しい潮流が広がりつつあります。

良い不動化反応とオキシトシン

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「社会交流(腹側迷走神経他)」「可動化(交感神経)」「不動化(背側迷走神経)」の3つのシステムは実際には同時に働いており、その時々の状況に適応できるよう行動や感情を調整していると考えられています。例えば、皆で楽しく遊んだりスポーツをしたりしている状況は、社会交流神経系が十分働いている時の可動化状態と言えます。逆に社会交流神経系が機能していない状況での可動化は、対人緊張やケンカが起こりやすくなります。

また、社会交流神経系が十分働いている時の不動化は、安全で安心できる状況でじっと動かないでいることができる状態と言えます。例えば、お互いに寄り添ったり、抱きしめ合ったりしている時や、出産・授乳時などの不動状態は、良い意味での不動化が起こっているのです。生命の危機的状況下ではシャットダウンという防衛戦略として機能する背側迷走神経は、親密な関係や生殖、母性などにおいても重要な役割を果たしています。

不動化の背側迷走神経を調整している脳幹の迷走神経背側運動核にはオキシトシン受容体があり、安全で安心できる状況では社会的絆や愛着と関係しているオキシトシンが分泌されることで、背側迷走神経は恐怖のない「良い」不動化反応を起こしているとポージェス博士は考えています。ちなみに、オキシトシン研究の第一人者であるスー・カーター博士は、ポージェス博士の共同研究者であると同時に妻でもあります。

ストレス/トラウマ理解に役立つポリヴェーガル理論

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「社会交流」「可動化」「不動化」の3通りの異なった生存戦略という視点から自律神経を説明したポリヴェーガル理論は、仮説の一つでありこれから多くの研究による検証が必要ではありますが、心と身体の症状や病気のメカニズムについて多くの示唆を与えてくれます。特にストレスやトラウマが影響するような場合には、その病態を理解する一助となることでしょう。

生まれてから幼小児期にかけての神経系の発達プロセスにおいて、交感神経が中心の可動化と背側迷走神経が中心の不動化状態は系統発生的に古くから存在しているシステムであり出産後の早期から機能しているのに対して、最も新しい腹側迷走神経を含めた社会交流神経系は、身近の家族との関わりを通じて神経細胞の可塑性により徐々に習得されていくと考えられます。

生まれたばかりの脳は五感をフルに活用して、これから生きていかなければならない世界についての情報収集をしていきます。この情報が心地良い「快」感覚かそうでない「不快」感覚かにより、安全で安心できる世界なのか、危険に満ちていて絶えず苦痛を感じる世界なのかを判断し、その世界を生きていくための生存戦略を日々の生活の経験を通じて学習していくことになるのです。

アブミ骨筋の筋トレ?によるセラピー

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表情豊かに抑揚のついた声で話している時、ニューロセプションは「安全」と判断し、社会交流神経系の顔面神経がアブミ骨筋を収縮させています。抑揚のある声は周波数帯がリズミカルに変化しているため、アブミ骨筋も緊張または弛緩状態で固まった状態にならず、顔面神経による微調整により柔軟に変化していると考えられます。その結果、雑音の中でも人の声を聞き分けることができるのです。

抑揚のある歌を歌ったり音楽を聴いたりすることは、心理的な要因だけでなくアブミ骨筋のストレッチやマッサージのような効果もあると思われます。その結果、高い周波数帯である人の声が聴き取りやすくなり、人とのコミュニケーションが良好になったり、聴覚過敏状態が改善したりすることも起こりうるのではないでしょうか。音楽療法も、このようなことが効果の一要因として影響しているのかもしれません。

ポージェス博士は、この聴覚刺激を使った独自の治療法であるリスニング・プロジェクト・プロトコル(LPP)(現在はセーフ・アンド・サウンド・プロトコル(SSP)と呼ばれている)を開発しています。この方法は、コンピュータで大きく抑揚をつけた歌声が含まれる音楽を繰り返し聴かせることで、アブミ骨筋の調節機能を活発化させ聴覚過敏を改善したり、腹側迷走神経を刺激し社会交流神経系を回復させたりすることを目標としています。