【薬に頼らない治療】ナチュラル心療内科のブログ

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良い不動化反応とオキシトシン

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「社会交流(腹側迷走神経他)」「可動化(交感神経)」「不動化(背側迷走神経)」の3つのシステムは実際には同時に働いており、その時々の状況に適応できるよう行動や感情を調整していると考えられています。例えば、皆で楽しく遊んだりスポーツをしたりしている状況は、社会交流神経系が十分働いている時の可動化状態と言えます。逆に社会交流神経系が機能していない状況での可動化は、対人緊張やケンカが起こりやすくなります。

また、社会交流神経系が十分働いている時の不動化は、安全で安心できる状況でじっと動かないでいることができる状態と言えます。例えば、お互いに寄り添ったり、抱きしめ合ったりしている時や、出産・授乳時などの不動状態は、良い意味での不動化が起こっているのです。生命の危機的状況下ではシャットダウンという防衛戦略として機能する背側迷走神経は、親密な関係や生殖、母性などにおいても重要な役割を果たしています。

不動化の背側迷走神経を調整している脳幹の迷走神経背側運動核にはオキシトシン受容体があり、安全で安心できる状況では社会的絆や愛着と関係しているオキシトシンが分泌されることで、背側迷走神経は恐怖のない「良い」不動化反応を起こしているとポージェス博士は考えています。ちなみに、オキシトシン研究の第一人者であるスー・カーター博士は、ポージェス博士の共同研究者であると同時に妻でもあります。

ストレス/トラウマ理解に役立つポリヴェーガル理論

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「社会交流」「可動化」「不動化」の3通りの異なった生存戦略という視点から自律神経を説明したポリヴェーガル理論は、仮説の一つでありこれから多くの研究による検証が必要ではありますが、心と身体の症状や病気のメカニズムについて多くの示唆を与えてくれます。特にストレスやトラウマが影響するような場合には、その病態を理解する一助となることでしょう。

生まれてから幼小児期にかけての神経系の発達プロセスにおいて、交感神経が中心の可動化と背側迷走神経が中心の不動化状態は系統発生的に古くから存在しているシステムであり出産後の早期から機能しているのに対して、最も新しい腹側迷走神経を含めた社会交流神経系は、身近の家族との関わりを通じて神経細胞の可塑性により徐々に習得されていくと考えられます。

生まれたばかりの脳は五感をフルに活用して、これから生きていかなければならない世界についての情報収集をしていきます。この情報が心地良い「快」感覚かそうでない「不快」感覚かにより、安全で安心できる世界なのか、危険に満ちていて絶えず苦痛を感じる世界なのかを判断し、その世界を生きていくための生存戦略を日々の生活の経験を通じて学習していくことになるのです。

アブミ骨筋の筋トレ?によるセラピー

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表情豊かに抑揚のついた声で話している時、ニューロセプションは「安全」と判断し、社会交流神経系の顔面神経がアブミ骨筋を収縮させています。抑揚のある声は周波数帯がリズミカルに変化しているため、アブミ骨筋も緊張または弛緩状態で固まった状態にならず、顔面神経による微調整により柔軟に変化していると考えられます。その結果、雑音の中でも人の声を聞き分けることができるのです。

抑揚のある歌を歌ったり音楽を聴いたりすることは、心理的な要因だけでなくアブミ骨筋のストレッチやマッサージのような効果もあると思われます。その結果、高い周波数帯である人の声が聴き取りやすくなり、人とのコミュニケーションが良好になったり、聴覚過敏状態が改善したりすることも起こりうるのではないでしょうか。音楽療法も、このようなことが効果の一要因として影響しているのかもしれません。

ポージェス博士は、この聴覚刺激を使った独自の治療法であるリスニング・プロジェクト・プロトコル(LPP)(現在はセーフ・アンド・サウンド・プロトコル(SSP)と呼ばれている)を開発しています。この方法は、コンピュータで大きく抑揚をつけた歌声が含まれる音楽を繰り返し聴かせることで、アブミ骨筋の調節機能を活発化させ聴覚過敏を改善したり、腹側迷走神経を刺激し社会交流神経系を回復させたりすることを目標としています。

 

聴覚過敏

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「危険」で「不安」な状況では、まず身を守るために本能的に捕食動物の唸り声のような低い周波数帯の音に注意を向け警戒する必要があり、中耳のアブミ骨筋は弛緩状態となります。その結果、不審な物音などの低い周波数帯の音には気付き易くなるのですが、人の声は逆に聴き取りにくくなってしまいます。「安全」で「安心」できる環境において、初めて人との会話に意識を向けることができるのです。

このような現象は、周囲の雑音が大きく聞こえて人の声を聴き取りにくくなる聴覚過敏と似ています。自閉症やうつ状態、統合失調症、PTSDなどでよくみられる症状ですが、同時に表情や声の抑揚に乏しく迷走神経による心拍数の抑制が弱く頻脈になるという社会交流神経系が上手く働いていな状態も認められます。これらの症状は、生物行動学的観点からは絶えず危険に対して耳を澄ませて警戒し続けている状態と言えます。

自閉症や言葉の発達の遅れには、高い周波数の子音が聞き取れないことで単語の意味が理解できないということが大きく影響していると、ポリヴェーガル理論のポージェス博士は考えています。ニューロセプションが世の中を危険と判断し、アブミ骨筋が弛緩した状態で捕食動物の唸り声と同じような低い低周波数帯の音を警戒する状態が聴覚過敏であり、その結果高い周波数帯の子音を含む言葉を聞き取れず理解できなくなるのです。

最も小さな骨と筋肉が危険から身を守る

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周囲の環境が「安全」か「危険」かを無意識下で判断するニューロセプションの中でも、聴覚からの情報はとても重要です。例えば、オオカミなど捕食動物の唸り声のように単調で低い周波数帯の音や声に対して「危険」と感じ、優しい女性の声や子守歌などのような抑揚のある高い周波数帯の声には「安全/安心」を感じています。これは進化の過程で、低い周波数帯の音と捕食動物を結びつける神経回路が形成されているからです。

耳の中(中耳)には、耳小骨という人体で最も小さな3つの骨が連なって鼓膜からの音の振動を内耳に伝えています。この時に音の振動を調整しているのが、アブミ骨筋というわずか3mm程の体内で一番小さな筋肉です。この筋肉は社会交流神経系の一つである有髄の顔面神経でコントロールされており、緊張させることで低い大きなエネルギーを持った音が入らないようにして耳を守ったり、高い周波数帯の人の声を聴き取ったりしているのです。

低い周波数帯の音が多い雑踏の中で人の声を聴き取ることができるのは、このアブミ骨筋を適度に緊張させることで、高い周波数帯である人の声を選択しているからなのです。逆にアブミ骨筋が弛緩していると、低い周波数帯の大きなエネルギーを持った音が内耳に伝わり人の声は聴き取りにくくなります。これは捕食動物への警戒態勢が優先された状態で、ニューロセプションが「危険」と判断していることによります。

無意識下の危険察知システム ~ニューロセプション~

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ポリヴェーガル理論では、「安全」「危険」「生命の危機」の状態は無意識下で察知され、それぞれの状況に応じた自律神経システムが働くと考えられています。このプロセスは意識的な知覚(パーセプション)とは異なり、無意識レベルでの反射であり、ポージェス博士は「ニューロセプション」という言葉で表現しています。このニューロセプションは、五感刺激の中で主に視覚と聴覚からの情報により大きな影響を受けます。

神経系による無意識下での危険評価システムであるニューロセプションによる生理学的反応は、動悸や腹部症状などの内受容感覚として感じることができます。また不安感や第六感として感じ取ることもあります。このニューロセプションによる一連の反応は個人差が大きく影響しています。同じストレス状況でも、どのようなニューロセプション反応が起こり、その結果どのような生理学的状態になるかは人により異なっているのです。

トラウマ治療などにおいては、ニューロセプションを通じて「安全である」と感じ、安心できる落ちついた生理学的状態に入ることができるように環境を整えることが重要となります。特に生命の危険を感じるようなトラウマ体験においては、不動化のシャットダウン状態を経験しているためニューロセプションが安全を感知することが難しく、社会的交流に必要な生理学的状態を前提とする一般的なカウンセリングなどは効果が限定され時間がかかってしまうのです。

ヴェーガル・ブレーキ

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迷走神経は一本の神経ではなく、脳から内臓器官に向かう遠心性線維(運動線維)と、内臓器官から脳幹に入ってくる求心性線維(感覚繊維)の束が詰まっている導管と言えます。この迷走神経を構成している線維の約80%が脳幹の孤束核に終わる感覚線維で占められています。残りの約20%が運動線維で、その6分の1が有髄線維であり、脳幹の疑核から始まり横隔膜より上の心臓などの臓器に分布しています。(横隔膜上迷走神経)

運動線維の6分の5は無髄で、背側運動核から始まり横隔膜より下の胃腸などの臓器に分布しています。このようにポリヴェーガル理論においては、迷走神経は3つのタイプの神経線維から成り立ち、その時々の状況に合わせてどのような反応をするのか身体が無意識に判断しているのです。この中でも有髄の腹側迷走神経は心拍数の制御においてヴェーガル・ブレーキとして重要な働きをしています。

心臓は洞房結節というペースメーカーにより1分間に約90回の自発的な収縮を繰り返しています。安静時心拍数が1分間に約60回というのは、有髄の迷走神経によるヴェーガル・ブレーキが心拍数を20~30回減らしていることによります。オートマティック車が停止しているとき、アクセルを踏まなくてもブレーキを緩めるだけで動き出すのと同じで、通常は微調整が難しい交感神経というアクセルを踏まなくても、腹側迷走神経によるヴェーガル・ブレーキを緩めるだけで、日常生活に必要な可動化の微細なコントロールができるのです。

迷走神経パラドックス

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不随の背側迷走神経は、副交感神経として主に横隔膜より下の腹腔内の消化管などの内臓の働きを制御しており、一部は横隔膜より上の胸腔内の心臓や気管支にも分布しています。動物が極度のストレスを感じた時に脱糞する現象は、この無髄の背側迷走神経の働きにより腸の動きが亢進することによります。人間においても、この背側迷走神経の過活動による消化管機能亢進状態となり下痢や腹痛を起こすと考えられます。

通常は、防御反応として無髄の背側迷走神経による不動化システムが働かないのは、第一段階の社会交流神経系の有髄の腹側迷走神経が主に働くことによると言われています。その場合、背側迷走神経はいわゆる副交感神経として一般的な内臓の制御を行うことになります。すなわち、背側迷走神経には不動化と副交感神経の2通りの働きを持っており、社会交流神経系が上手く機能しないと不動化が起こりやすくなるのです。

このポリヴェーガル理論による考え方は、これまでよく分からなかった迷走神経パラドックスという現象を説明することができます。従来の考え方では、迷走神経は副交感神経系としての1種類だけであり、社会的交流の中で交感神経系の働きに対してブレーキをかけ代謝の需要を減らし、「健康」「成長」「回復」を促す役割を担っているとされていました。しかし現実には、「不動(失神)」「徐脈」「無呼吸」といった生存にとって非常にリスクを伴う反応にも迷走神経はかかわっており、この相反する矛盾は解明されていませんでした。

哺乳類の不動化による防衛戦略

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哺乳動物における不動化は、捕食動物に捉えられても一瞬の隙に逃げ去るというラストチャンスを狙った防衛反応と言えます。中でも極端な不動化による擬死状態になる哺乳動物として有袋類のオポッサムが有名です。一般的な哺乳動物は、外敵に遭遇した場合交感神経の働きによる闘争・逃走反応をまず試みますが、オポッサムはいきなり身体を丸めて固まったように横に倒れ、半開きの口から舌を出し腐敗臭(死臭)を漂わせるのです。

人間の場合は、「気を失って倒れる」「意識はあるが身体の一部または全体が全く動かなくなる」「普段とは異なった意識状態になる」「感情や感覚を感じなくなる」「身体の感覚がわからなくなる」などの反応として不動化による防衛機制が起こります。哺乳動物としての人は、実はこれらの反応によりストレス状況から身を守っているのですが、人間社会では普段とは違う異常状態であり、転換反応、解離状態、失感情症、失体感症などと表現され「症状」や「病気」として扱われます。

最近のDVや虐待の報道においても、被害者である子供や女性にも恐らく無意識の防御反応としての不動化が起こっていたのではないでしょうか。3通りの防衛反応の中で、2番目の交感神経系優位の闘争・逃走反応は、加害者との力関係が同等または優位である時に選択できます。しかし圧倒的な力関係の差がある場合は自分の生命を守るために、無意識レベルで3番目の不動化が起こると考えられ、その結果身体が固まってしまい全く抵抗できない状態になってしまうのです。この状態は、本来背側迷走神経による正常な防御反応であり、本人に非は全くないのです。

昆虫や爬虫類は擬死(死んだふり)で身を守る

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哺乳類では生存戦略の最終手段となる不動化戦略は、昆虫や爬虫類では主役となります。例えばてんとう虫やバッタなどに触れると、固まってしまい全く動かなくなります。これは、昆虫の主な捕食者であるカエル、トカゲ、クモなどは動くものしか攻撃しないため、不動化戦略が昆虫にとっては最善の防御手段となるのです。擬死の持続時間は通常数分から数十分ですが甲虫類の場合は数時間に及ぶこともあるそうです。

トカゲなどの爬虫類も、身に危険を感じるとじっとして動かなくなり背景に溶け込んでしまいます。元々酸素消費量が哺乳動物に比べて非常に少ないため、無呼吸状態でも代謝を落とした仮死状態になることで数時間は生命活動を維持することができるのです。爬虫類の迷走神経は無髄の太古の迷走神経で、「不動」「徐脈」「無呼吸」という極端にエネルギー消費を抑えた状態にすることで捕食される危険から身を守ってきたのです。

系統発生学的に、爬虫類と違って哺乳類は2つの迷走神経回路を持っています。爬虫類と同じ無髄の迷走神経と、進化の過程で有髄化されている哺乳類特有の神経回路です。哺乳類における無髄の迷走神経は、安全な環境下では内臓の働きを制御し恒常性を維持するという、一般的な副交感神経としての働きをしています。しかし、この神経系が防衛反応として使われたときには、哺乳類でも「不動」「徐脈」「無呼吸」状態になり、代謝を落としたシャットダウンシステムが働き完全に脱力して崩れ落ちたようになってしまうのです。